ブログ

モジュラー化について知っておくべきすべてのこと

作成者: Tobias Martin|2022/04/21 11:55:16

産業革命以来、顧客からのカスタマイズされた製品の要求はますます高まっています。また、企業がデジタル化と持続可能性への挑戦をするために、製品に対するイノベーションスピードはますます加速しています。さらにコモディティ化とグローバリゼーションにより、かつてないほどの速さで市場が決める価格は下がってきています。

このような状況を乗り越えるために、企業はどのように舵取りをすれば機敏性とカスタマイズ性において競争優位に立つことができるのでしょうか。イノベーションを阻害することなく、いかにしてスケールメリットを獲得し、複雑性がもたらすコストを削減することができるのでしょうか。カスタマイズ性と量産性の両方のメリットを顧客に提供するためにはどうしたらいいのでしょうか。


モジュラー化とは、製品をスマートに分解する手法ですが、これはスケールメリットを得ると同時に、さまざまなコンフィグレーションを作成して顧客価値を高めるためのツールです。製品のモジュラリティとは、製品がどれだけ構成可能かを示す指標であり、つまり、与えられた数の構成要素でどれだけ多くの組み合わせを実現できるのかを意味します。

モジュラーシステムで仕事をするというのは、「考え方」のことを意味しています。この考え方は、あらゆる産業に転用することができ、製品プラットフォームや共有部品で実現できること以上の可能性を見出すことができます。モジュラー化の専門家たちは、モジュラーシステムが単なるモジュラー化された製品にとどまらない、ということを知っています。モジュラーシステムは、製品、オペレーションモデル、インフラなど、ビジネス全体を包含しているのです。

 

  モジュラーシステムが最低限のモジュールバリエーションで多くの製品を構成可能とする例

モジュラーシステムは、自動車、家電、通信など、製品に特化した業界にとどまりません。また、これはプロジェクト型ビジネスに対する「Engineering to Order(個別受注生産)」から「Configure to Order(受注組合せ生産)」への転換にも欠かせません。さらに、サービス提供型企業がモジュラーの考え方を用いることにより、顧客価値をフィードバックしながら適正なオファリングをすることによって、企業価値をワンランク上げるための跳躍板として活用することもできるはずです。また、モジュラー化は、コードの再利用、並列開発、テスト工数の削減など、ソフトウェア開発における基本的なツールとなります。

この章では、モジュラーシステムとは何か、モジュラー化を活用してどのようにビジネス戦略を実現するか、製品のためのモジュラーシステムをどのように作成するのか、そしてそれをどのように改善していくのか、どのようにモジュラリティを測定するのか、成功のために必要なコア能力は何かについて、弊社の最善の考えをお伝えします。

 

モジュラー化とは?

モジュラー化とは、製品やシステムを交換可能なモジュールに分割する活動と表現されます。モジュラー化の目標は、要求されたさまざまな構成に対して、その要求に対応するために必要な固有のビルディングブロック(モジュールバリエーション)の数を減らしつつ、要求に柔軟に対応できるシステムを作ることです。そのためには、複数の構成の中でモジュールのバリエーションを再利用することが重要です。そうすることによって、モジュール単位でボリュームを集約することができ、製品を標準化することなくスケールメリットを享受することができます。

この考え方を用いることで企業は、組織内部における業務の複雑さを軽減(設計、製造、保守のためのバリエーション数を制限する)しながら、企業の顧客価値を高め(適切な製品構成)、開発スピードを上げる(製品全体ではなく、システム内の該当するモジュールのみを変更する)ことができるのです。

モジュラー化とは、標準化のメリット(複雑なものを低コストで作る)とカスタマイズのメリット(それぞれの顧客に適した製品を作ることができる)を組み合わせたものなのです。

モジュラー化とは、標準化とカスタマイズの利点を取り入れたものです。

モジュラー化の最も分かりやすい例は物理的なメカニカル製品かもしれませんが、この手法はソフトウェアやサービス製品においても同様に有効です。

モジュラー化を可能にするために不可欠なものは、標準化されたインターフェースです。インターフェースがあることで、モジュールを別のモジュールと交換することにより、製品の性能や機能を調整することができるようになります。

 

モジュラーシステムとは?

モジュラーシステムとは、製品を構成するためのモジュール、インターフェース、コンフィグレーションルールからなるシステムです。ここでは、「柔軟性」「機敏性」「効率性」の実現が成功のカギです。優れたモジュラーシステムは、効率性はもちろんのこと、幅広い製品に対応し、変化に柔軟に対応できる機敏性を持ち合わせているため、アーキテクチャを長く維持させることができます。このブログを通して、最も優れたモジュラーシステムの定義とは、についてさらに深く知ることができます。


 

モジュラーシステムの効率性とは、安定性とスケールメリットを両立させることです。異なる製品間でモジュールを再利用することで、ボリュームを集約することができます。モジュールの変化をなくすことで、サプライチェーンは長期的な計画やコミットメントによって利益を得ることができます。例えば、バッテリーシステムには、すべての製品バリエーションに共通で使用できる冷却ファンを含めることができます。経験上、業界幹部が最初に思い浮かべるモジュラー化の特徴は、この点であると思われます。

モジュラーシステムが持つ柔軟性とは、顧客のニーズに合わせたマスカスタマイゼーションを可能にすることです。例えば電池システムで考えてみると、異なるエネルギー貯蔵容量の提供が可能になるような構成ができる、ということです。SKU(量販)主導のビジネスでは、モジュラーシステムがより少ない労力でより速いSKUの作成を可能にします。カスタマイズされた製品の場合、モジュラー化はより良い見積をより早く作成するための高効率な設定ツールとして役立ちます。多くの場合、オンラインのCPQ(Configure-Price-Quote)システムで、顧客自身が製品を設定することができます。

モジュラーシステムの機敏性とは、新しい要件や技術に対して迅速かつ統制のとれた変更を可能にすることを意味します。例えば、充電機器において、充電速度とグリーンエネルギーの利用の最適化を考慮するような制御にアップグレードすることができると考えられます。形状やインターフェースの仕様変更に備えることで、変更を特定のモジュールに限定し、周囲に影響を与えないようにすることができます。

これまでお伝えした3つの条件をすべて満たすモジュラーシステムを構築することに成功した企業は、顧客価値とコストにおいて競合他社に勝るビジネスモデルを構築することができます。営業、研究開発、生産、調達、アフターマーケット、そして製品の複雑さが問題となるあらゆるものも含め、ビジネス全体に影響します。

 

モジュラリティとは?

モジュラリティとは、モジュラー化のターゲットとなるシステムがどの程度うまく機能するかを把握するものです。その評価基準は、一般的に効率性、柔軟性、機敏性と定義することができます。モジュラー化に対する評価の方法はいろいろありますが、ビジネスでモジュラー化を活用することを考えると、上記の評価基準は他の方法よりも重要と考えます。

効率性を計測するためには、システムにどれだけの種類の構成要素が必要かという尺度を作ればよいのです。これは少なければ少ないほど効率が良いと言えます。その代表的なものが、PNC(Part Number Count、部品種類数)です。部品番号の種類数をコントロールすることで、管理者は時間の経過とともに意図せず複雑さが増えてしまう状況を確実に防ぐことができます。

柔軟性を計測するためには、一連のモジュールのバリエーションが準備された状態で、どれだけ多くの製品を構成できるかを測定するという方法があります。この指標はコンフィギュラビリティと呼ばれ、可能な製品の数を必要な部品の数(品番数)で割ったものとして定義されます。

機敏性を計測するためには、新製品をシステムに追加する際に、何種類の新部品を追加しなければならないかを測ればよいのです。これは通常、1年間など一定期間の平均的な測定値を得るために測定されます。指標の定義は、導入された部品の数を有効な製品バリエーションの数で単純に割ったものです。

モジュラー化による柔軟性と複雑性の低減を説明する図

 

スカニアの前CEOであるLeif Östling氏は、次のように語っています。
品番の管理と制限は、長期的に収益性を最適化するために最も重要な要素の一つです。」

 

モジュラー化とモジュラーシステムの歴史

モジュラー化が最初に活用されたのは紀元前200年の兵馬俑まで遡ることができると言われていますが、現代の産業界でのモジュラー化の活用は、スカニアトヨタデンソーデルソニーなど異業種のリーダーがこれの先駆けとなっています。これらの企業は、モジュラー化、ガバナンス、モジュラーシステムの改善を通して、明確な市場リーダーシップをとることに成功しました。

ドイツでは、モジュラーシステムを「Baukasten(バウカステン)」と呼ばれています。直訳すると「工作キット」です。フォルクスワーゲンは、モジュラーシステムをBaukastenと呼んでいます。フォルクスワーゲンMQBはModularer QuerBaukastenの略で、トランスバーサルエンジン・モジュラーシステムと訳されます。「バウカステン」は、1930年代にはすでに鉄道模型、モジュラーラジオ、子供用電子工作キットなど、DIYキットの用語として頻繁に使われていました。これらの玩具は、産業用モジュール製品のプラットフォームと共通する部分が多くあります。柔軟性を持たせるという目的は同じで、インターフェースの標準化という手段も同じです。

ソニーはハンディカムとウォークマンの2つの商品で、モジュラー化を計画的に進め、1980年代を通して競合他社をリードしていきました。他社が追いつけば、すぐに次のバージョンを発売し、再びプロダクトリーダーになることができるのです。

一方、スカニアは、マスカスタマイゼーションを可能にするのはモジュラー化であることを理解していました。トラックは、さまざまなレベルでモジュラー化されているため、ほぼ無限のバリエーションが可能です。スカニアは数十年にわたり、モジュラー方式に対して独自の重点を置くことで、一部の競合他社より少ない生産台数であっても、収益性に関しては圧倒的に優れた業績を上げることができました。分散とカスタマイズを受け入れ、そのために最適化することで、スカニアは優れたスケールメリットを達成することに成功しました。

今日の経済において、成功する企業は、ハードウェア、ソフトウェア、製品、サービスのいずれにおいても、モジュラー化のチャンピオンでもあります。Web2.0の誕生により、モジュラー化は企業の垣根を越え、マイクロサービス、ウェブアプリ、オープンAPIが全く新しいカスタマイズとアジャイル性の可能性を実現しています。そして、より多くの機能がハードウェアからソフトウェアに移行していく中で、従来のハードウェア企業も新しい考え方や仕事の仕方を取り入れることで利益を得ることができます。

 

ソフトウェアのモジュラー化

品質向上、Time-to-Market(開発から販売開始までの期間)の向上、規模の拡大

多くの企業が複雑なソフトウェア開発に悩まされています。

  • 開発能力をスケールアップすることが困難
  • テストへ多くの工数を使っているにもかかわらず、ソフトウェアが品質問題を引き起こしている
  • ソフトウェア開発では変更が入ると予期せぬ波及効果が発生するため、計画や予算が立てにくい

従来はメカが中心だった企業も、好むと好まざるとにかかわらず、ソフトウェア企業になりつつあると言われています。「ハードウェア企業」のCTOの多くは、ハードウェアエンジニアよりもソフトウェアエンジニアの方が必要であると感じているそうです。ソフトウェアアーキテクチャ問題の典型的な根本原因は、「自社で開発したソフトウェア」、「高度に結合されたソフトウェア構造(俗にいうスパゲティコーディング)」、「重複する複数のソフトウェア・プラットフォーム」、の3つです。

ソフトウェアモジュールの独立性、再利用性、互換性を高めることで、ソフトウェア開発はより効率的に、真の意味でアジャイルに行うことができるようになります。独立したモジュールにより、開発チームは自律的に行動し、市場への素早い展開(Time to Market)を改善することができます。以下に、戦略的ソフトウェアモジュールの文書化用テンプレートをご用意しています。ご興味のある方はぜひダウンロードください。

 

モジュラー化・モジュールシステムに関する用語解説

モジュール

モジュールは、企業独自の戦略によって駆動される特定のインターフェースを持つ機能的なビルディングブロックです。

モジュラーシステム

モジュラーシステムとは、さまざまな方法で構成できるビルディングブロックの集まりで、顧客のさまざまなニーズに適応します。モジュラーシステムは、モジュラーサブシステムを複数のモジュラー製品アーキテクチャで共有することができるため、階層化することができます。モジュラーシステムには1つ以上のアーキテクチャがあり、これはモジュールを使ってどのように製品を構築するかを記述する構造です。

モジュラー製品アーキテクチャ

モジュラー製品アーキテクチャとは、モジュラーシステムに基づき、ある種の製品を構築するための幾何学的・論理的な構造です。ある企業では、洗濯機と乾燥機の両方に1つのモジュラーシステムを使用しています。しかし、洗濯機と乾燥機では、モジュール製品の構造が異なります。

モジュラー化

モジュラー化とは、製品のシステムをモジュールに細分化し、モジュラー化のレベルを高める活動です。モジュラー化は、ハードウェア、エレクトロニクス、ソフトウェア、サービスなど、あらゆる組み合わせに作用することができます。


モジュールバリアント

モジュールバリアントは、モジュールのインターフェースと戦略的意図を満たす、モジュール部品そのものです。ハードウェアやエレクトロニクスの場合は、物理的な部品となります。ソフトウェアの場合は、カプセル化されたコードの一部です。ソフトウェアモジュールは通常、すべてのユースケースに柔軟に対応できる1つの実現方法しか持っていません。ハードウェアとエレクトロニクスについては、各モジュールに1つ以上のバリエーションが存在することになります。

モジュールインターフェース

モジュールのインターフェースは、モジュールが周囲とどのように相互作用するかを定義するものです。それは、他のモジュールであったり、外界であったりします。インターフェースは物理的なもので、あるモジュールと別のモジュールを接続することができます。2つのモジュール間の情報、メディア、電力の転送方法を指定することができます。また、モジュールのために確保された空間を定義する幾何学的なものもあります。
 

コンフィグレーション

コンフィグレーションとは、一連のコンフィグレーションルールを満たしたモジュラー製品アーキテクチャに従った、特定のモジュールバリアントの組合せのことです。

コンフィグレーションルール
 
コンフィグレーションルールとは、モジュールバリアントをどのように組み合わせて製品をつくるかという情報を管理するものです。モジュラー製品アーキテクチャは、構造を記述するものであり、コンフィグレーションルールは、どのようなモジュールバリアントを組み合わせることができるかといったロジックを記述し、顧客のニーズを適切な構成に変換する方法を定義します。コンフィグレーションルールは、製品および機能のパッケージングと価格設定など、ビジネスロジックを制御することも可能です。
 
プロダクトコンフィグレータ
 
プロダクトコンフィグレータとは、コンフィグレーションルールを実行するソフトウェアソリューションです。セールスコンフィグレータやCPQソリューションのような形で顧客と接することができます。またプロダクトコンフィグレータは、製造や設計のための部品表を作成したり、カスタマイズ可能な製品の図面を自動的に生成するという目的で社内業務の中で使用したりすることも可能です。
 

複雑さに起因するコスト

複雑性に起因するコストとは、新製品の導入や多種多様な製品を管理するために生じるコストのことを意味します。多種多様な製品があれば複雑さのコストは高くなり、少ない類似の製品であれば、複雑さのコストは低くなります。つまり、スケールメリットを理解し、製品がそれにどのような影響を与えるのかを理解するためのものです。モジュラー化することで、製品にコンフィギュアビリティを持たせながらスケールメリット性を向上させることができます。規模は製品レベルではなく、モジュールレベルで達成されます。これが、より少ないものでより多くのものに対応することに繋がります。


プラットフォーム

製品プラットフォームとは、特定のコンポーネントを製品間で共有できるようグループ化された類似製品の集まりのことです。製品プラットフォームは、製品間の部品の再利用を促進したり異なる顧客要件に適応したりするために硬直化することが多く、柔軟性を欠くことがあります。このような課題はモジュラー化によって改善されます。モジュラープラットフォームは、モジュラーシステムの同義語です。フォルクスワーゲンは、製品からプラットフォーム、モジュラーシステムへと移行した素晴らしい例を持つ企業です。

 

モジュラー化とモジュラー化製品の成功例

例1.Husqvarna(ハスクバーナ)社製電動草刈り機

ハスクバーナ社はモジュラー化という分野でも真のパフォーマーです。一例として、電動草刈り機のモジュラーシステムがあります。複数のブランド間で、進化すべき部品が同じアーキテクチャを共有し、コード付き草刈り機からバッテリー式草刈り機への転換をサポートしています。

この図は、モジュラーシステムが機能部品におけるスケールメリットを失うことなく、ブランド特性を差別化するために十分な柔軟性を備えていることを示しています。モーター、バッテリー、スピードコントロール、ケーブルなどの部品は、スケールメリットが大きい部品です。さらにサブアセンブリレベルでの共通化が実現できれば、大規模な調達やテスト済みのアセンブリの調達も可能になります。

ハスクバーナでは、複数のブランドがアーキテクチャを共有しながら、設定ルールやスタイリングモジュールでブランドや価格帯を分けているロボット芝刈り機の例もあります。

ハスクバーナもIoTやクラウドソリューションを活用し、Tools for Youというコンセプトでサービスを提供しています。もともとハードウェアやコンシューマ製品の販売から、サービスとしてのガーデニングツールの販売へとビジネスモデルを転換した先駆的な存在となっています。また、IoTはプロフェッショナルな車両管理にも活用されています。

例2.Wärtsilä(バルチラ)4ストロークエンジン

バルチラは巨大なエンジンを作っており、膨大な製品ポートフォリオを持っています。補助発電機やディーゼル発電機、船舶に搭載される比較的小型のエンジン(シリンダー径200mm程度)から、発電所や船舶の推進用に用いられる大型低速エンジン(シリンダー径500mm以上)まで、様々なタイプのエンジンを製造しています。

機械室のレイアウト、燃料の種類、電力要件、運転パターンなど、柔軟性に関する要求が高いことはモジュラー化へ進ませた推進力の一例です。同時に、競合他社からだけでなく、地球環境レベルでの持続可能性に関する要求がますます高まっていることも、技術的な追い風になっています。バルチラのモジュラー式4ストロークエンジンシステムは、このチャレンジに対応するためのものです。

モジュラー化の優れた事例をいくつか紹介します。エンジンブロックは、出力軸とターボチャージャーアセンブリの位置関係を柔軟にすることで、複雑さを重複させることなく顧客のマシンルームの配置に対するフレキシビリティを実現しました。燃料噴射装置とシリンダーヘッドのインターフェースを標準化することで、エンジンの基本機能部分に影響を与えることなく燃料の種類を設定することができようになっています。

さらに、Wärtsilä 31は、市販されている4ストロークエンジンの中で最も燃費の良いエンジンの一つとなっています。オペレーターにも、地球環境にも優しいことで知られています。「世界で最も効率の良いエンジン」のケースストーリーをご覧ください。

例3.Spotify Web API

開発者なら誰でも使えるAPIを公開することで、Spotifyは自社製品の壁と限界を押し広げています。

アルバム、ライブラリ、プレイリストといったSpotifyのモジュールを組み込むことで、より素晴らしいプロダクトを生み出すことができます。このオープンアクセスにより、Spotifyはスマートウォッチ、スマートスピーカー、カーエンターテイメントシステム、テレビなどに急速に統合されることになります。これらの開発は、協力なしにはこのようなスピードで実現することはできなかったでしょう。ここで重要なのは、インターフェースの標準化です。

十分に仕様化された安定したインターフェースを公開することで、インターフェースの両側で、完全にオフライン状態で開発を進めることができるのです。この同時開発は、モジュラー化が企業内にもたらす効果と同じです。しかし、インターフェースの指定は、それ以上に重要な課題かもしれません。注意しないと、企業は何世代ものAPIを維持することになりかねません。

Spotifyの例が素晴らしいのは、純粋にグローバルな協力のための組織のボーダーラインを取り除いたことです。モジュラー化は、社内だけの戦略である必要はないのです。

モジュラー化を成功させるための4つの基礎知識

「A chain is no stronger than its weakest link- 弱い輪があれば全体の鎖が弱くなる」

モジュラーシステムで持続的な成功を収めるためには、4つの領域で高い能力を確保する必要があります。

モジュラーシステム戦略

貴社のモジュラープラットフォームがどのようにビジネス戦略をサポートしているかを理解することは、成功のための基本です。現在の課題、将来のビジョン、進むべき道が一致していなければ、真の可能性のほんの一部にしか到達できないでしょう。アライメントはトップから始め、社内に波及する必要があります。

やり方としては、次のようにトップダウンでアライメントを確保します

製品アーキテクチャの戦略は、企業や事業分野によって大きく異なる場合があります。例えば建設業界では、プロジェクトベースの建設からコンフィグレーションベースの建設に移行するために、モジュラー建設システムを取り入れるという傾向があります。目的は2つあります。顧客価値の向上と効率化です。各企業は、自分たちが今どこにいて、どこまで到達したいのかを正しく理解し、効率的な舵取りをする必要があります。これを分析するためのツールが「製品アーキテクチャ成熟度モデル」です。詳しいブログ記事とオンラインで簡単に自己評価を行えるツールを用意していますので、ぜひご確認ください。

もう一つの例は、サステナビリティへの取組です。企業が循環型経済を取り入れるにあたり、モジュラーデザインがどのように役立つのでしょうか。モジュラーマネジメント社のパートナーであるColin de Kwant氏は、英国王立工科大学と共同でこのテーマを研究しています。


モジュラー化: モジュラーシステムの構築

モジュラーシステムを構築するためには、製品が満たさなければならない要件は何か、その要件は今後どのように変化するか、顧客を満足させるためにはどのような性能レベルに到達しなければならないか、などを理解する必要があります。正しいビジネスフォーカスと優先順位を設定するために、市場モデルを定義する必要があります。その際に役立つツールは、例えばニーズベースのセグメンテーションです。Scott Jiran氏のブログ記事では、異なるセグメントの顧客価値を分析するためのツールとしてのカスタマーキャンバスについて紹介しています。

優れたモジュラーシステムは、適切な柔軟性と俊敏性を備えています。これを実現するためには、必要な機能と性能を生み出すために、製品とその中の技術をどのように適合させ、開発しなければならないかについての深い知識が必要です。

しかし、技術を理解するだけでは十分ではありません。製品によって、すべての機能にわたるビジネス戦略がどのように実現されるべきかを理解することも必要です。その一例が、リーンを導入した生産戦略です。シナジーを発揮するために、リーンやモジュラー化をどのように導入すべきでしょうか?

市場、技術、ビジネスのニーズを理解することは、適切な柔軟性と俊敏性を備えたモジュラー化のための重要な出発点です。しかし、再利用や長期的なガバナンスを実現するためには、モジュールやインターフェースも設計し、アーキテクチャの意図を保てるように文書化する必要があります。


モジュラーシステムを改善する

製品を生産しているすべての企業は、モジュラー型であろうとなかろうと、製品アーキテクチャを持っています。つまり、すべての企業が既存のアーキテクチャを改善することができるということです。

ますます増加する改善、継続的な改善、絶え間なく続く改善、カイゼン活動など、私たちは好きなものにたくさんの名前をつけています。素晴らしい結果は、通常、時間をかけて改善することで得られます。これは、優れたモジュラーシステムの重要な特性の1つでもあります。つまり、長く使えるので、長い時間をかけて改良することができるのです。製品アーキテクチャを改善するこの分野では、多くのトピックが関心を集めていますが、次にいくつかの例を挙げます。

  • サポート終了を前提とした製品ポートフォリオの分析。研究開発の優先順位を決め、全社的にフェーズイン/フェーズアウト計画を調整する。例:不採算製品のテールカット、複雑に起因するコストを考慮する。
  • 再設計、最適化、バリューエンジニアリングの候補を特定し、優先順位をつける。目標を設定し、行動し、フォローする。
  • 調達力強化のためのサプライチェーンアクションを特定し、優先順位をつける。数量集約、モジュール戦略、サプライチェーン戦略の調整。また、Covid-19の大流行により、強靭なサプライチェーンへの注目がさらに高まっています。モジュラー化によって、どのようにして地理的な柔軟性とデュアルソーシングを実現できるのでしょうか?

モジュラー化で成功するために必要なコアコンピタンス

次にお伝えする4つ目の基礎は、企業の中核となる能力です。どんなに良い製品を作っても、それを活用し、維持するための能力がなければ失敗に終わってしまいます。

  • 効率的なモジュラーシステムのガバナンス、設計、販売、調達、および生産を実現するためのプロセス、役割、意思決定モデル。
  • 営業、製品管理、研究開発、調達のためのデジタルソリューションによる、引き合いから納品までのプロセス・開発プロセス・維持管理のためのプロセスの効率化。企業はすでにデジタル化されていますが、製品からモジュラーアーキテクチャに移行するためには、システムをどのように適応させなければならないのでしょうか?販売システムにおけるモジュラープラットフォームの活用の一例として、ガイデッドセリングツールやコンフィグレータの導入が挙げられます。
  • 複雑さのコストを理解し、アーキテクチャや設計の決定において再利用と直接コストのバランスをとる方法。

Lars Gullander氏による「How to Manage Change in your Modular Product Architecture」のブログ記事において、ガバナンスのための意思決定モデルの例も紹介されています。

 

モジュラー化・モジュラーシステムに関する6つの心得と注意点

Tip1.常に顧客からスタート

製品を設計する際に最も重要なインプットは、顧客にとってどのような価値を生み出すかを理解することです。モジュラーシステムを設計する場合、対象となるすべての顧客を満足させる柔軟な製品を作ろうとするため、これはさらに重要なことです。つまり、要求事項の全体像と、それが時間とともにどのように変化するかを理解する必要があるのです。弊社には、ニーズベースの市場モデルやイノベーションのスコーピングなど、素晴らしいツールがあります。


Tip2.部門横断的な設計への取り組み

モジュラーシステムは、基本的に会社のすべての機能にわたるメリットを約束します(営業、マーケティング、製品管理、研究開発、調達、物流、生産、アフターマーケットなど)。しかし最大限の効果を得るためには、機能的な専門知識がモジュラーシステムの設計に影響を与えることが基本です。これにより、最大限の効果を得ることができ、他の機能のニーズや戦略を理解することが、プラットフォームを長続きさせるための必須条件となります。ある機能が他の機能を巻き込まずにシステムを変更し始めると、すぐに悪化する危険性が高くなるためです。

Tip3.モジュラー化の良い例となる

ローマは一日にして成らず、という言葉があるように、大規模で複雑なポートフォリオを生産している企業は、一夜にしてすべてを変えるという冒険をすべきではありません。成功した企業は、複雑さとの戦いに勝つことは、短距離走というよりむしろマラソンであることを証明しています。小さく始めて、素晴らしい事例を広め、時間をかけて変えていく。一番大事なのは、正しい方向に進むことです。素晴らしい結果が、そのままスピードを加速させます。

Tip4.モジュラー化の価値を知る

モジュラーシステムを作るためには、こだわりが必要です。詳細設計を実行する前に、より大きな範囲を考慮する必要があるため、最初の製品の発売が遅れる可能性があります。つまり、従来の意思決定の仕組みに反するような意思決定をしなければならないのです。直接費用だけに注目するのではなく、直接費用と複雑さの費用のバランスをとるのもよいでしょう。

このような決定を下し、モジュラープラットフォームの設計に最適なリソースを優先し、長期にわたってしっかりとコミットし続けるためには、モジュラー化の価値を明確に理解することが非常に重要です。モジュラー化は、損益計算書や貸借対照表にどのような影響を与えるのでしょうか?より多くの利益を得るには何が重要なのでしょうか?財務目標に合意することで、経営陣は長期にわたってコミットし続けることができます。

Tip5.モジュラーシステムをガバナンスする準備をする

共有モジュラーシステムの価値は、最初から金額で示されるわけではありません。長期的な成功のための手段です。つまり、成功するためには、時間をかけてシステムを守っていかなくてはなりません。製品ではなく、モジュールやアーキテクチャで仕事をするために、ガバナンスモデル、意思決定会議、製品オーナーを明確にし、配置してください。変化を受け入れるべきタイミングは?どのような場合に断るべきか?誰が決定権を持つのか?どんな根拠で?

このような難しい質問に対して、最初から明確な整合性を持たせておくことで、投資が長期的に利益を生むための最良の土台を作ることができます。

Tip6.モジュラー化に対する早期経営コミットメントの確保

経験上、変革プログラム(モジュラー化は変革です)において、結果にポジティブな影響を与える経営者の能力は、初期に最も大きくなります。しかし、よくある失敗例では、ポジティブな変化を提供するには手遅れになるまで、マネジメントが実際の時間を費やさないということです。経営者は、料金所のドアキーパーとしての役割だけではいけません。モジュラーシステムを導入することは、会社にとって大きな意識改革となります。経営陣は、初日からコミットし、取組に関与することが重要です。

 

 


モジュラー化のご相談

弊社は過去数十年にわたり、モジュラーシステムで世界中のビジネスの改善を支援することを専門として注力してきました。モジュラー化、そのやり方、そしてそれをサポートするツールがそろうことで複雑さを軽減し、同時に価値を高めることができます。

貴社の状況をヒアリングし、現在の状況からどのように改善できるかを議論したいと考えています。ぜひお気軽にお問い合わせください。