モジュラーシステムとは、多様に組立て(コンフィギュア)可能なビルディングブロック(モジュール)であり、さまざまな顧客ニーズに対応するものです。新たな顧客ニーズに応える為、もしくは、パフォーマンス向上の為、新規開発・設計変更を加えられるモジュールもあるでしょう。
モジュラー化が適切になされた場合、コスト削減や最適化といった活動はモジュールレベルで行われ、その影響が製品全体には及びません。つまり、顧客価値を提供する箇所とコスト削減する箇所が独立している為、顧客に与える付加価値を下げることなくコスト削減ができるのです。多くの企業では、製品の複雑さ軽減や、プロセスの効率化、つまり、ETO(受注開発)からCTO(受注組合せ生産)への変革をする為の手段としてモジュラー化を利用しています。
従来型のモジュラーシステムの構築方法とは、ひとつの製品ラインナップの中での技術的な要件(仕様やサイズ)やサプライチェーンにおける製造的な要件(工場・サプライヤ)を標準化・共通化する方法であることは周知であると思います。この様なシステムの対象は、製品レベルに限定されがちです。つまり、他の製品プラットフォーム間で共通の「機能」があっても、それは対象外になってしまいます。
これは、全体最適には繋がりません。特定のプラットフォームに向けた部分最適を引き起こす原因となります。最悪の場合、カスタマイズはパフォーマンスの観点からは不要で、顧客価値を低下させることさえあります。個別最適がなされていると、いずれの場合も、サプライチェーンやアフターマーケットの効率に悪影響を及ぼします。これらは、より共通化が進むと効率が上がるものです。
一部のリーディングカンパニーは、広範囲な製品アーキテクチャを定義し、既に次のレベルに踏み出しています。彼らは、複数の製品プラットフォーム間で共有できるモジュラーシステムを持っています。製品アーキテクチャとは、組合せ(コンフィギュア)を可能にするシステムであり、これによって、規模の経済・柔軟性の経済性の両方をカバーすることが出来るようになっているのです。
そのようなリーディングカンパニーのひとつに、世界最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲングループ(VW)があります。VWは製品プラットフォームとアーキテクチャの領域を拡大し続ける事で、業界全体の方向性を示してきました。私は、モジュラーシステム活用のメリットを説明する際、例としてこのVWの事例をよく用います。本記事では、VWをもとに、ハイレベルな製品アーキテクチャと共有モジュラーシステムについてご説明します。
1997 Volkswagen Golf
1990年代初頭に、VWは自動車業界で先駆けてプラットフォームの共通化を用いだしました。1960年代半ばに AUDI、86年に SEAT、91年に SKODA を買収し、20以上もの車種を生産していました。複数のモデルやブランド間でベースとなるプラットフォーム を共通化することで、駆動系や内装、シャシーなどの部品でスケールメリットが得られるようになりました。しかし時間の経過とともに、このアプローチがブランドの差別化を困難にしてしまっていると批判を受けるようになりました。これはプレミアムブランドを傷つけてしまう一方で、低価格帯のブランドにとっては目標のコストまで下げることを困難にしてしまうというリスクも出てきました。
2011 Volkswagen Golf
VWの第2世代のプラットフォームコンセプトは2000年代半ばに登場しました。標準化からモジュラー化へ明確な変革を行ったことにより、増加してきていた規模の経済での競争にもカバーできるプラットフォーム化を実現しました。
今や、Audiで生産される全ての車が同じプラットフォームで製造されるようになりました。これはサプライチェーンにとって夢のような状況でした。このおかげで効率性は大幅に向上し、また組立ラインが削減され、調達力が向上しました。
2017 Volkswagen Golf
10年後の2010年代半ばには、MQB (ドイツ語で Modularer QuerBaukasten、英語で Modular Transversal Engine Building System) と呼ばれる革新的なシステムが導入されました。VWは、同じ製品プラットフォームからあらゆるサイズの車を作ることを目指していました。2020年末には、MQBプラットフォームがVWの生産台数の80%以上を占めるようになる見込みです。
VWを例に、製品アーキテクチャとは何か、モジュラーシステムとは何か、そしてモジュールが両概念にどのように関係しているかをご説明します。既に述べたように、私はモジュラー製品アーキテクチャを、すべてのレベルで組合せ(コンフィギュア)されたモジュラーシステムのシステムとして定義しています。次の図は、製品のすべての領域をモデルにしています。各モジュラーシステムが製品全体の一部にしか及んでいないということを示しています。
今日までに、VWはいくつかのモジュラービルディングシステム(Modulare BaukästenまたはModular Building Systems)を持っています。既に述べた通り、彼らはMQBを活用していますが、縦置きエンジン用のMLBとミッドエンジン車用のMMBも活用しています。さらに、電気駆動装置用にMEBとPPEプラットフォームも使用しています。これら追加のプラットフォームが存在するのは、VWがPorsche やAudiをはじめとする、プレミアムでハイパフォーマンスな車を数多く取り扱っているからです。
先に述べたように、現在のVWのボリュームの大部分はMQBでカバーされています。中でも興味深いのは、このプラットフォームと他すべてが互換性を持つ(組合せ可能な)製品アーキテクチャであるということです。
つまり、プラットフォームが異なっていても、同じ組合せ(コンフィギュア)可能なモジュラーシステムを用いて構築することができるということです。この概念を、電動MEBプラットフォームを用いて説明していきます。
MEB は、VW グループ初のEVプラットフォームで、電動ドライブトレインを中心に構築されています。もちろん、バッテリー駆動のEVプラットフォームで最も重要な部品のひとつはバッテリーです。ここからがポイントです。実は、バッテリー自体がモジュラーシステムなのです。またこのシステムは、プレミアム・ハイパフォーマンス電動自動車用のPPEを含む、他のEVプラットフォームと共有が可能です。
バッテリーを構成する上で重要なのは、どれだけのスペースがあるか、どれだけのエネルギーを蓄える必要があるかということです。異なるプラットフォーム間で高電圧インターフェースとバッテリー用のスペースを決めるロジックを共有できるのであれば、このモジュラーシステムは共有可能になります。
これは、異なるレベルのバッテリー容量、充電性能、設置可能面積を選び構成することが可能なモジュラーシステムです。システム内のモジュールの多くは、膨大な量を統合する為に標準化が可能です。これには、例えば、セルモジュール、セル管理コントローラ、高電圧コネクタなどが含まれます。これは、新しいバッテリーのサプライチェーンを構築する際に大きなメリットを生み出します。VWは、彼らのEVプラットフォームを他社へ販売することに前向きでした。なぜなら、これにより開発とサプライチェーンへの投資効果をより高めていくという狙いがあったからです。
参考までに、下のモジュラー製品アーキテクチャ図のボックスに、VW の電動自動車プラットフォームの用語をいくつか記載しています。これらはあくまで例であり、事実ではないことをご了承ください。
最後に、さまざまなレベルでのモジュラー化、そして非常に機能的なアプローチをご説明します。このアプローチにより、生産、製品計画、営業など組織を促進できます。
この考え方は、工業製品や消費財の他の多くの製品分野、例えば家電製品、機械、機器などにも応用できます。
例えば、家電業界では、家電製品のタイプが異なればモジュラーシステムも異なるとみなすのが古典的な考え方です。つまり洗濯機用のモジュラーシステムと乾燥機用のモジュラーシステム、それぞれ別個のシステムが存在すると思われているかもしれません。機能的な意味で見ると、妥当かもしれません。しかし、工業デザインや生産の視点では、共通化の機会を見落としていると言えるでしょう。
一般的に家庭では洗濯機と乾燥機は一緒に使用されるので、消費者はもちろんそれらが共通のデザインとユーザーインターフェースを持つことを望むでしょう。
モジュラーシステムの観点から見ると、洗濯機と乾燥機のモジュラーシステム内で、フロントパネルとユーザーインターフェースを部品として並べるよりも、共有のモジュラーシステムとして見る方がはるかに理にかなっています。そうすることで、2つの製品ラインでスタイリングとユーザーインターフェース、両方を同時にアップデートすることが出来ます。これは、見た目と操作に一貫性を求めるという顧客の期待も満たすことができます。
家電業界では、自動車業界と同様に、多くの製品を共通の組立てラインで柔軟に生産することに重きを置いています。その為には、構造設計の考え方を統一し、同じ工具を使用し、同じ組立順序で製造することが求められます。
例えば、洗濯機と乾燥機を同じ組立ラインで生産したいとします。その為には、これらを同じ製品アーキテクチャに纏め、基礎となるモジュラーシステムと、それらの間のインターフェースを極力共通化する事に注力するでしょう。
先に見た例と同じ方法で洗濯機と乾燥機の製品アーキテクチャを図示すると、次の様になります。
洗濯機及び乾燥機間で用いた制御・通信関連のモジュラ―システム(IoT用のハード・ソフトウェアや制御系)は、他の家電間でも共通して用いる事ができるでしょう。
本記事を通して、私は製品アーキテクチャをモジュラーシステムのシステムとして定義しました。これはモジュラー化の可能性を最大限引き出す実現策として最も重要なもののひとつであると考え
ています。前回の記事『優れたモジュラーシステムは何をもたらすのか』では、収益性の高いモジュラーシステムをスコープする方法をご理解いただく為に、概略モデルを提案しました。引き続きこのシリーズを続ける予定です。そして、顧客の価値観、アプリケーション、およびサプライチェーン戦略に基づいて、市場をリードできるモジュラーシステムを設計する方法について深めていきたいと考えています。
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