私は25年以上製品開発に携わってきました。すべての優れた製品は、深い顧客ニーズの理解から生まれます。そのような完璧な製品を開発するために必要なのは、その製品はどこで、どのように、いつ、なぜ、使われるのか、また、収納、保守、保管がどのようになされるのか、などを把握することです。
顧客ニーズを把握し、それらを製品機能や機能と性能のレベルを含む仕様に落とし込むためには複数のツールや手法があります。しかしこれらの手法を、一貫性のある体系的な方法で活用している企業はほとんどありません。多くの企業は依然として製品開発チーム内で黙々と知識を発展させているのが現状です。より狭い範囲においては、顧客の趣味嗜好情報であるペルソナ、チェックリスト、他の資産に合わせたターゲットセグメンテーションモデルの形に組織化され、整理されたナレッジ情報を発展させています。したがってほとんどの企業は、優れているとまではいかないが少なからず顧客要求の知識を許容範囲程度は持っており、それを製品仕様に何らかの形で落とし込むことはできます。仕様から製品へ展開するプロセスは多くの場合、より一貫性と構造化されたものとなっています。
システムから構成要素へどう仕様をブレークダウンし、どのように計算し、シミュレーションし、そして仕様を確実に満たしているかどうかテストを行うかといったDocumented methodは手法として存在しています。もし製品とシステムレベルの仕様がよくできていれば、開発チームはこの仕様に対してのみ検証するだけで済みます。彼らは、実際の顧客ニーズに適応した検証をする必要はありません。例としては、製品を移動させやすい・持ち運びやすいという顧客要求が挙げられます。最大重量、製品を運ぶ人の体から重心までの最大距離、ハンドルの形状と材質、製品底面からハンドルまでの最大高さなど明確な仕様があります。もし開発チームがそれらの仕様を満たす設計を行っていれば、製品は移動させやすい・持ち運びやすいとなるでしょう。
もし私がある特定の製品を繰り返し購入しているのであれば、製品のことを良く知っているので、技術的な詳細仕様に興味を持つと思います。しかしながら、私がはじめてその商品を購入する初心者である場合、それらの詳細仕様は全く無意味です。少なくとも、私はどのようにその製品を使うかという考えをある程度は持っています。製品を簡単に持ち運びできることを望んでいるかどうかは把握しています。しかし、もしその製品がトライフレックスラバー3層の天然ゴムライニングでカバーされた人間工学に基づくハンドルを使っていても、もしそれを運ぶ際に重心が自分の体から30cm離れているように設計された仕様であっても、それらの情報は私の製品購入の決断に全く影響しません。
ではなぜ、顧客ニーズを満たす製品の開発に大成功しているのに、購入段階で購入者をうまくガイドすることができていない企業が多いのでしょうか。それらの企業はなぜ、無意味な仕様価値、技術的専門用語、社内ブランドやモデルの名前などの多くを私たちに押しつけるのでしょうか。何が欲しいかを尋ね、そのニーズに沿った最適なものを提案しませんか?
これから、私と私の同僚の経験や知識、またガイデッドセリングと称される顧客ニーズに基づく販売に関連した気づきを共有します。まずは私が掃除機を購入した際の経験から始めますが、より複雑な工業製品についても論じます。それでは始めましょう。
自宅用の掃除機を購入した際の最近の個人的な経験の共有から始めます。実は私はかなり以前に掃除機の新プラットフォーム開発に携わっていましたが、詳細のほとんどを忘れていました。そのため、自身を一般の掃除機購入者として考えています。私はどこで、なぜ、どのように掃除機が必要かは理解していましたが、特殊機能や技術的仕様には全く興味がありませんでした。
私の家族は二つの掃除機を持っています。一つ目は、すぐ使えるように常に台所の見えるところに置いています。それは台所での細かな掃除のため1日に何度も使用されます。この掃除機の最も重要なことは見栄えが良いことです。見栄えの悪い掃除機を「常設」する ことは、私にとって耐え難い苦痛です。2番目に重要なのは、軽くて使いやすいものです。並外れた高いパフォーマンスは必要なく、3~4年使えれば十分です。それであれば、絶対に高価ではないはずです。頻繁に使う短命でもいい製品なので、消費電力や素材などの環境面も重要です。
― またしてもゲームオーバーです。
結果として、我が家の代替の掃除機の最優先項目は、頑丈であることです。同時に見えるところに常設する必要は 全く必要ありません。我が家の狭い掃除用戸棚に収納でき、できれば毎回戸棚を開けるたびに掃除機の半分が落ちてこないことが必須です。また室内で飼っているペットはおらず、家族にアレルギー持ちもいないので、標準レベルの掃除機の性能があれば十分です。余計な回転ブラシやウェットクリーニング機能も全く必要なく、詰まって壊れるだけといった印象です。使用頻度が少なく、最低でも15~20年は持つと思っているので、以前の環境面や価格はあまり気になりません。候補のひとつとしてNilfisk のような丈夫で半工業用の何かを考えていましたが、小さな戸棚に入るものとは形状が違うはずです。掃除機のために戸棚を再構築する計画はありません。
私はインターネットで探しはじめましたが、ほとんどすべての掃除機製品が同様のアプローチを行っていました。以下のイメージ画像は、Bosch社のWebサイトの例から引用したものです。
最初にアクセスしたページ上では、Bosch社は私の希望に合わないいくつかの機能や最新機能の大々的な宣伝から始まっています。まず掃除機のタイプやモデルを選択し、度々、事前に選択した機能や「高速回転モーター」やコードの長さといった仕様値によってフィルタリングされる可能性があります。 いくつかのイメージ、ハイライト、仕様と共にモデル名の一覧が表示されます。
それらのいくつかのモデルは私にマッチしたものかもしれませんし、そうでないかもしれません。確かなことは、表示されたモデルのどれも私や私のニーズに合ったのもではないということです。
私が調べたおよそ15社中、Miele社は唯一異なるアプローチを取っていました。最初に、紙パック付きキャニスター、パック無、スティック式など、掃除機に関する他社と同様の質問から始まりました。その後、掃除機の使用方法といくつかの優先項目の質問がありました。
そして最後にベストマッチを提案してもらいましたが、思わず笑ってしまいました。
コンパクトC1 掃除機 Cat&Dog ターボブラシとニオイフィルター付き
Miele社は、私が見たすべてのブランドの中で最高のニーズベースの選択ツールを持っています。彼らはとても素晴らしく、使いやすいガイデッドセリングの手法を使っています。しかしながら残念なことに、結果として彼らは私のニーズを満たす製品を持っていませんでした。彼らは私を含まない特定のセグメントや用途をターゲットにするという戦略的な決断をしたのではないかと思っています。万人にすべてを提供しようとしていては、企業は優れた企業にはならないということは十分に理解しています。しかし、興味があったので、戻っていくつかの選択肢を変更してみました。そして変更は結果に影響しないことが分りました。再び戻ってランダムに選択を変更しました。結果として、優れた顧客向けツールの背後には、融通の利かない非常に狭い製品範囲しかないように感じました。“狭い” というのは、基本モデルの中から選択できるものが少ないという意味です。”融通の利かない” というのは、基本モデルごとに機能やオプションの追加・削除がほとんどできないという意味です。
私はMiele社のフロントエンドは好きですが、製品の提供には残念に感じました。そしてMiele社は、私とのやりとりを今後に生かそうとしませんでした。私は最初の選択をした後で何度も進めたり戻ったりしながらよりランダムな方法で変更を繰り返しました。そのような私のサイト訪問の履歴を見ることはおそらく可能でしょう。なぜ彼らは、私が掃除機を購入せずサイトから去った理由を推測できないのでしょうか。彼らは、正直な購入希望者からのフィードバックを無料で得ることのできる機会を逃したのです。
私の掃除機購入経験を以下の5つの洞察でまとめたいと思います。
最後に、SCANIA トラックの優れた例を挙げてこの記事を締めくくりたいと思います。SCANIAはトラックという複雑な製品でのガイデッドセリングを使用しています
SCANIA のコンフィグレータは100%完璧なガイデッドセリングに適応しているわけではなく、ホイール構成のようにアイテムを選択するために専門的知識が必要な場面でコンフィグレータのステップをいくつか持っています。ほとんどのトラック購入者は、何の入力を求めているのかを把握しているでしょう。しかし SCANIA の主なアプローチはとても優れています。彼らはモデルもしくはエンジンタイプや馬力のような仕様値の選択を要求しません。彼らはトラックがどのように使用されるかを尋ねます。例えば、最大負荷やトラックの走る道路の種類に関する質問をします。SCANIAはこれらの回答をもとにして、正しいエンジンタイプと馬力を含めた完全な製品コンフィグレーションを提案します。彼らの提供するすべてのトラックは、顧客特有のニーズを満たすユニークなものになっているのです。
ぜひScaniaのHPで試してみてください Scania's home page
最強の組合せとは、使いやすいガイデッドセリングを用いた優れたフロントエンドを持ち、顧客それぞれが持つニーズと完全に一致する真のコンフィギュアブルな製品提供を意味します。最強の組み合わせは、次の2つの基本的な方法から始めることが出来ます。
まとめとして、製品マネージャー、営業マネージャーや営業担当者は、まず製品の販売に使用される原則について考えることが重要です。さて、皆さんは製品をお客様に押し付けることなく、お客様のニーズを引き出して、これに最適なソリューションを提案できているでしょうか?
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